2009年07月27日

目に見えない資本主義 ~ 田坂広志 + 46年前と26年後

この経済危機の先に来るべきものは・・・・

   

書籍情報


目に見えない資本主義
田坂 広志(たさか ひろし)
東洋経済新報社
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本のひらめき

田坂広志さんの最新刊は、従来の経済学では予見しえなかった資本主義の未来
を語る啓蒙の書である。弁証法をひもときながらの深い洞察と、日本文化のよ
さを再認識する鋭い世界観から、次なる進化の行く末を感じさせてもらえる。

本書は、田坂さんが参加された2009年1月のダボス会議(世界経済フォー
ラム)の議論の中から生まれたという。温家宝、プーチン、クリントン、ゴア
など各国首脳や、ユヌスなどのノーベル賞受賞者などがそれぞれの立場から、
直面する世界経済の立て直しの議論を行った。しかし、そこには田坂さんが密
かに期待していた議論は、残念ながら、なかったという。
唯一、ジム・ウォリスというアメリカの牧師さんが立てた問いだけが、田坂さ
んの琴線を捉えた。

それは・・・

 我々が今、立てるべき問いは
 「この危機は、いつ、終わるのか」
 ではなく
 「この危機は、我々を、どう変えるのか」
 ではないか。

という発言だった。本書は、まさにこの問いに立脚した内容である。経済危機
を超えて誕生する「新たな資本主義」とは、どんな姿なのか・・・。それは、
不良債権の処理でも、信用崩壊の修復でも、経済指標の好転でもない。
現在、私達の意識に深く浸透しているお金という価値観のみに依存した「グロ
ーバル資本主義」が内包する本質的な問題に向き合うことなのだ。

世界的な経済不況と地球環境の悪化という人類の直面した問題の中で、私達が
なすべきことは、対処療法ではなく、従来の経済学が立脚していた「貨幣経済
」という土俵を超えた、パラダイムの転換こそが必要なのである。

資本主義が土台とする「経済原理」、つまり、結局はお金が支配するんだとい
う考え方に、これから5つの大きなパラダイム転換が起きるという。

 第一のバラダイム転換:「操作主義経済」から「複雑系経済」へ
 第二のバラダイム転換:「知識経済」から「共感経済」へ
 第三のバラダイム転換:「貨幣経済」から「自発経済」へ
 第四のバラダイム転換:「享受型経済」から「参加型経済」へ
 第五のバラダイム転換:「無限成長経済」から「地球環境経済」へ

の5つである。じっくり味わいながらこれらのパラダイム転換を感じてほしい。

サブプライムローンの深層、オバマのYes We Canが意味したもの、
CSRの落とし穴、民主主義の本質的意味、など、今ここにある世界の真相と
その先を感じることができる。

本書は、混迷の時代に灯をともし、経済不況から立ち直るだけではなく、私達
の社会が新たな進化をとげるための深い洞察が書かれている。社会の変化を知
るための知識の書ではなく、未来を感じる哲学の書として、読み進めたい一冊。

田坂さんワールドを感じられる「あなた」だけに読んでいただきたい。
超、おすすめの本。


僕の思いつき

田坂さんがいくつかの著書で著されていたことがらが融合しながら、資本主義
の次なる進化を予見する本書は、時代の要請に答える稀有な本といえるのでは
ないだろうか。物事の本質を深く鋭く洞察される田坂さんの本からは、多くの
気づきが得られる。

勝つことや生き残ることや人より勝ることを重視した市場原理の世界にどっぷ
りとつかってきた私達は、気持ちのどこかで“何か間違ってる・・”と感じて
きた。世界が経済と環境の危機にさらされている中で、その“何か”が何なの
かを、本書は、とても明解に提示している。


かつて僕はバランススコアカードの本を書かせていただき、また講演や講義な
どの機会もいただいた。しかし、正直にいえば、どこかしら物足りなさや、形
式に流されそうな浅薄さの危惧を感じていた。バランススコアカードが説く4
つの視点は、確かに財務的な視点だけではなく、顧客との関係性や社員の意識
、そして業務のやり方などを総合的に伸ばしていくべし・・・というものであ
った。目に見えない価値や資本(関係資本、信頼資本、知識資本など)にも焦
点を当てようという斬新で(かつ、なつかしい)アイデアがあった。

しかし、そこには「無意識の操作主義」という危険性や、知識経済などの新た
なパラダイムの経済を「貨幣経済」という古いパラダイムの尺度に押し込める
という立ち位置の未熟さがあったのかもしれない。バランススコアカードもま
た、新たなパラダイム転換の中で、進化できるかも・・・、そんな気がした。


また、多くの企業はCRS報告書なる立派なドキュメントを少なくない費用と
労力をかけて作っている。しかし、なんだか変だ・・と感じる方も多いはず。

市場原理と競争原理の行き過ぎを是正するために生まれてきたCSRさえも、
実はその市場原理の文脈の中で扱われていたことに気づかされる。

市場原理思想の裏には、「人の欲望を活用して、経済を発展させ、社会を進化
させていく」という日本の文化的視点からみると“美しくない”しかけがあっ
た。CSRも旧来の市場原理の延長線上ではなく、パラダイム転換した軸上で
捉えるべきなのであろう。

日本の中に培われていた美しきものに気づくことができるのも、本書の楽
しみである。

 責任と義務 ではなく、使命 という言葉を
 罪と罰   ではなく、恥 という言葉を
 成功や名声 ではなく、道 という言葉を

大切にしてきた日本のよさに気づかされる。

爽やかな読後感を、あなたと共有したいな。



オススメ度

★★★★★+資本主義の進化

読んで欲しい方

・100年に一度のチャンスを活かしたい方
・経済危機の先にある未来を感じたい方
・ハイブリッド経済に何かしら貢献したい方

Posted by webook at 2009年07月27日 15:16 | TrackBack
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