1997年06月17日

【安楽に死にたい】...松田道雄97.6.17...☆☆☆☆☆+★

【安楽に死にたい】
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松田道雄 1908年(明治41年)生まれ京大医学部卒小児科医、育児の百科等著書多数
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岩波書店 1200円 1997.4.24 第1刷 1997.5.12 第3刷
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この本のテーマは、死ぬ前のケア(心のこもった世話) と自らが選択出来る 安楽死 です. 齢90歳の著者は、近づく"生と死"の選択を 人間として尊厳ある選択をしたいと願いつつ、現状の延命至上主義の医療制度と あまりに貧弱な"介護" の社会インフラを批判しています. 又、もう一つのテーマは いかに死ぬか.... 「どうせ死ぬなら楽に死にたい.それは年をとって弱った人間が万人が万人願うとところである.人間として尊厳ある最後を実現するために"安楽死"につてじっくりと考え直してみる.高齢者医療のあり方~生物的には延ばす努力をするが人間としていきることについては全く考えていない~ 延命至上主義を批判しつつ、"生きる"、"死ぬ"の選択は誰のものか」を問うています. 著者の松田道雄'先生'(そうなんです.私はこのおじいちゃんを先生と素直に呼びたい)は、子供のある家庭のかたならおそらくお世話になったことのある あの"育児の百科"を書いたかたです. --蛇足ですが- 育児の百科は -- '子供が風邪で熱を出すのは、正常である.3x度以上でなければへたに医者にかからずほっておけ.医者へいけば、不要な薬をもらって来るだけだ.寝れば治る!" なんてじつに明解に断定的に書いてあり、初心者パパママのとてもいい育児navigatorの本です. このおじいちゃんの偉いとこは、未だに 先進の医療論文等をよみ、必要な事を この育児の百科に改定版でもりこみ続けていることです. 日本の誇れる小児科医最高の人と言えます. ----------------蛇足 オワリ ----- そんな先生ももう90才になり、広辞苑が片手で持てない、書架の上の方にある本がとれない等 自分のからだが確実に老いてきてやがて 死を迎えなければならないという認識があるなか、人間の尊厳ある死、あるいは 安楽な死について現状社会の不備をなんとかせねば...という気持ちで書いています. 現在の医療制度は 診察するという技術そのものには対価がなく点数制度で"薬" をいかに多く出すかという仕組になってしまった.昔は "往診"という地域社会と融合したいい習慣があったが、病院/医院の経営からは 3分診療で 一日50人以上みないとやってけない現実がある.さらに 悪いことに 高齢者医療については、医者自体が 高齢者を知らない(自分のこととして認識できない)からますます困る. 最近 ケヤつきマンションが売れたが、これを死ぬまでマンションで暮らせる等と思うのは大間違いで、実態は、付属診療所の医者は いざというとき診察するが後は 契約の病院へ送ってしまい、悪いときは 最先端!の医療(鼻にチュ-ブベッドに縛り付けの刑)をほどこされて、生物として鄭重に看護(病院経営のこやし)にされてお仕舞い. 欲しいのは、生物としていかに長く生きたかを問題にする病院での"看護"ではなく人間として、社会や家族と関わりをもちながらケアしてくれる"介護" である. 「もうキュア(医者のやる治療)はたくさんだ.」 「ケア(親しい人の心のこもった世話)だけにしてほしい」と訴えています. ところが最近の核家族化した社会では 、昔のように家族の心のこもった世話がしにくい現状がある. 一つは、例えば卒中などで倒れると 救急車を呼び、すぐ病院へ隔離されてしまう.又 仮に家出看護しても、結構長く生き延びる体制の中 家族は 看護に疲れてしまう. 死については、米国で認められつつある 安楽死に関する法律や 日本の憲法問題にもふれ、現在の医療制度の不備を歴史的な見方も交えて書いています. 「余命の苦痛(心の痛みを含む)ばかりとなったら、形骸と化した生命を、自分の意思で消すことも個人の幸福を追及です」というように 死の選択も個人権利として保障すべきという考え方を書いています. 明治生まれの松田先生、日本の医療の歩みと共に生きてきたこの人の鋭い視点が、最後の力を振り絞って訴えている感じがする本でした. 私たち(現役の人) はまだまだ 死ぬわけには行かないし、老いてもいないので、死とか、あるいは 人の世話(介護) を受けるような状態を あまり真剣には想像しませんがいずれそうなることは確実であること、また運がわるければ明日にも交通事故で 寝たきり老人と同等な状態になる可能性があることから 他人事ではありません. そして、おそらく多くの人は 自分の親が高齢者として介護を受けないといけない状況になる年代ですね. 介護や 死について 一度 review しておくことも必要かもしれません. この本は そんな時の いい参考になります. 私の家内も今これを読んでいます. 週末は 終末論争がくりひろげられそうな シンノス家 です. ご両親の世話をどうするかとか兄弟で話をしたいかた特別養護施設に関心のあるかた死ぬなら こんなんがええなあ なんて CRT を見ながらボっとしてる方に おすすめです.
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おすすめ度 ☆☆☆☆☆+★ (最後の黒星は この世のナゴリに...) 真之助

Posted by webook at 1997年06月17日 16:35