1997年07月17日

【漆の実のみのる国(上)】...藤沢周平97.7.17...☆☆☆☆

【漆の実のみのる国(上)】
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藤沢周平
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文芸春秋
97.5.20 第1刷
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米沢藩の藩政腐敗を背景に期待の藩主として登場する上杉鷹山を
描いた時代小説です.
藤沢周平の小説は初めて読みましたが、なかなか重厚な時代小説
です.
著者は、すでに故人となっておりこの作品はその遺作です.
上下巻あり、ハトロン紙につつまれた重厚な本です。

この上巻は、舞台となる米沢藩のお家騒動にはじまります。
上杉鷹山の先代藩主 重定は、いわりゆる無能の藩主で、実権を
家老の森に握られ、その森は権力を傘に私利私欲に走ったため
心有る家臣がクーデターで森を除外し、さらには無能藩主の重定
にも隠居をさせます。いよいよ鷹山の登場。しかし、藩政は腐敗
し、構造的な(経済的な)困窮にあえぐ状況での鷹山門出となり
ます。
竹俣美作当綱(たけのまた みなさか まさつな)という江戸家老
がキーマンとなって話がすすみます。--長いなまえやなあ。

時代小説は好きですが、なぜ好きなんだろうと考えると、やはり
自分のすむ世界に投影できててしまうからでしょうか.
藩主は社長、家老は重役、江戸家老は東京支社長、勘定頭は経理
部長、儒学師範は社外コンサルタントなんてところでしょうか...
舞台背景も、藩主と社長の考え方も違うのですが妙に投影できる
のは不思議ですね. 会社意外にもいろいろ当てはまりそうですネ。

当時の米沢藩は、石高15万石で5000人の家臣を持っていたようです.
これは他藩と比べると格段に人権費が突出していたようで、1500
億円の売り上げを5000人でだしているような感じでしょうか.
(桁まだ違うかも)
これは、米沢藩の生い立ちに起因するもので、関ヶ原の合戦の後
上杉影勝が 会津から 米沢へ移された時に、譜代の家臣5000人を
手放さずに移ったためのようです.
人口6000人くらいの町に更に5000人がきちゃったので初めは住む
場所もない武士がたくさんいたようです.これが米沢藩の苦難の
はじまりでさらに 無能な藩主(重定) や権力を私利私欲につかっ
た筆頭家老(森平右衛門)などによる藩政のために財政逼迫となり、
食うに食えない状況 (なんだか 21世紀の日本のような..)になっ
てしまいます.
そんな中、良識ある家臣(当綱)が 悪家老退治、藩主隠居進言
など行い、晴れて 上杉鷹山の出番(当初17才) となりますが、
世の中そううまくは運びません...
上巻は、当綱の経済復興策(これに漆の木がからみます)でなん
とか藩の赤字財政をなんとかしようというところで終わります。

将軍吉宗の倹約時代は、経済が米(石)から お金へとパラダイム
シフトしているにもかかわらず、もとの視点でしか考えられな
かった所に敗因があったようですが、この本の舞台の米沢藩で
もにたような状況にあたようですね。

しっかりした時代考証(とおもわれる)が下敷にあり、重みのある
小説のような気がしました.

時代小説をお好みのかたどうぞ。
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おすすめ度
☆☆☆☆
真之助

Posted by webook at 1997年07月17日 16:47