1997年07月22日

【漆の実のみのる国 (下) 】...藤沢周平97.7.22...☆★☆★☆

【漆の実のみのる国 (下) 】
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藤沢周平
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文芸春秋
97.5.20 第1刷
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文藝春秋 平成5年1月号から9年3月号まで掲載された時代小説
の下巻です.

7.17 に紹介しました上巻のおさらい....
上巻は、腐敗した米沢藩の藩政を立て直すべく前の権力者家老
森某が殺されるというお家騒動のあと、藩主 重定の後を受けて
藩主となる治憲(のちの上杉鷹山)が登場、そして、森某の一派
によるクーデター未遂などが描かれていました.
そもそもの貧乏藩である 米沢藩は 構造的な経済不況にあり、
赤貧の状態(だれかの書評に 今の北朝鮮のような印象だ という
のがありました) の中、いいもんの家来である 竹俣美作当綱
(たけのまたみまさかのまさつな)らの新規事業計画に ひとすじ
の光明を見いだしたことろまででした.

下巻では、きっと その新規事業がうまくいき...なんてストー
リー展開が期待されるのですが、まったくの外れ.
まず、美作の考えた新規復興事業 - 漆の木等を100万本植樹し
て将来 その実から木蝋(ロウソク)をとり売ろうというものです
が、最初の植林の実施段階からつまづいてしまいます.遅々とし
て進まぬ事業に業を煮やした美作が蛮勇をふるって推進します.
ところが なんとか見通しがついてきたころ、実は 西国でもっと
品質のよい櫨蝋(ハゼロウ)が売られ始め、市場予測が大はずれ....
現代でもそうですが、新規事業には資金がいります.当時投資銀行
はありませんが、"商人"という身分の人に借財をします.
その借金たるや物凄くて、現代の債券なみかそれ以上です.
さらに 幕府からの普請事業の御下命あり、天命の飢饉が襲い、
家臣の人材不足...とまあ よくぞこれだけの疲弊と苦境のなかに
藩主としての居住まいを乱さず生きていたなと思ってしまいます.

赤貧の貧乏藩では、農民は餓死、下級武士も武士の志などどこへ
やら、食うだけで精一杯の生活、社会の風紀が荒廃するもの当然
ですね.そんな藩の状況が、いくつかの上申書の訴えで紹介され
藩主 鷹山は 苦慮します.

最後も これといって打開策があるわけでもないのですが、唯一
良識ある下級家臣がなんとかしていこうと努力していく覚悟を
決める....
こんな所で終わり...

上下巻を通じてながれる 重苦しい雰囲気の中で 時折さす光明は
鷹山なんとかせねばという"決意"でしょうか.

なんだか 行き詰まり感のある世界で悶えながら格闘する藩主
鷹山の 姿は、どこか 自分の世界(会社)のありさまににていて、
気持ちわるい感じさえします.

リストラの最中苦境にたたされている方と
不良債券になやまされている企業の方
には おすすめできません.
他の本をお読みください.

順風とはいかなくてもまあ 平和な方に
苦しくとも希望を失わない自信のある方に
おすすめです.
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おすすめ度
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真之助

Posted by webook at 1997年07月22日 16:48